≒(ニアリーイコール)を楽しむ言葉の世界<その3>「クタクタに疲れる」ことは「空っぽになる」こと?
世界情勢をできるだけ一方向から見ないように
心を鎮めながら過ごしています。
今日は、旅の途中で出会う言葉のお話を。
目次
旅の中で出会う言葉
旅の中で出会う言葉は、あいさつに始まり、
言いたいことや聞きたいことが増えるに従って、
だんだん増えていく。
まるで、小さい子どもが言葉を覚えていく様を
早送りしているような感覚。
特に一人旅では、言葉の壁を感じずにはいられない。
(旅のトラブルにも言葉は欠かせない。スペインマドリッドのホテルにて)
↓
過去の旅の中でも、「言葉」についての思い出が
強く残っているのは、一人旅の時だ。
愛情と生活感にあふれる言葉
「一人旅」とはまたちょっと違うかもしれないが、
ホームステイの中で出会う「言葉」は生活そのもので
忘れがたい場合が多い。
イタリアのフィレンツェでホームステイをしたことがある。
(イタリアのフィレンツェでホームステイしたお宅のリビング)
(かれこれ30年愛用のジーニアス)
ホームステイの時、ホストファミリーから投げかけられる言葉は、
愛情と生活感に満ちている。
「大丈夫?」
「うまくいってる?」
「困っていることはない?」
「お腹空いていない?」などだ。
「exhausted」という言葉の意味は?
そんな中で出会った言葉に、「exhausted」(英語)
という言葉がある。
「exhaust」という言葉は、「疲れさせる」「使い果たす」と
日本語では訳され、容器などを「空っぽにする」という
意味もある他動詞だ。
「exhausted」はそれを過去分詞にした形て、
「I am exhausted.」で「私はクタクタに疲れている。」
という意味になる。
しかし、疲れるという意味を表す英語には、
「tired」があり、「I am tired.」で「私は疲れている。」だし、
「I am very tired.」で「私はとても疲れている。」
つまり、「クタクタに疲れている。」という
おおよその意味は、それで表現できることになる。
「クタクタに疲れる」ことは「空っぽになる」こと
英語の短期留学のためにカナダのトロントに滞在した時、
ホストマザーは赤ちゃんを育てるシングルマザーだった。
家事はちょっと苦手だけど、さっぱりしたカッコいい人。
当時大学生だった私を、一人前の大人として迎え入れ、
あまり干渉しすぎないように気を遣っていてくれていた。
留学先の学校で個人のプレゼンテーションがあり、
その準備と緊張で眠れない夜を数日過ごしたあと、
ホストマザーにかけられた何気ない言葉に
「exhausted」が登場した。
私の寝不足を気遣って、
「今日は早く寝た方がいい、
あなたは真面目で努力家だから、
You're exhausted,aren't you?」
その時、ホントに自分の中身が使い果たされて、
まるで空っぽのような状態だなと思った。
日本語の「疲れ切った」や「クタクタに疲れた」
という言葉よりも、「exhausted」の方がぴったりだったのだ。
そしてそれと同時に、あまり干渉しないホストマザーの
さりげない愛情で心が満たされるような気持ちになった。
「exhausted」≒「疲れ切った」「クタクタに疲れた」
「=」では結べない「≒」(ニアリーイコール)の言葉の世界。
曖昧だからこそおもしろい言葉の世界
その日から、日本で日本語で暮らしていても、
思う日や思う場面がやってくる。
「I'm exhausted.」
もちろん、いきなり人に英語で話したらびっくりされるから、
心の中でつぶやくだけだけど、その時の自分の状態や気分を
一番表現できる言葉は、日本語とは限らない。
そして、私が「I'm exhausted.」と思う時、
同時にふわっと漂うのは、自分の中が空っぽになるまで
がんばった経験や、ホストマザーとの思い出などだ。
言葉は生きていると実感する。
言葉の世界はおもしろい。
曖昧だからこそ。