旅に出られない旅人はどうなってしまうのか<その39>「旅に出られない旅人が、とうとう旅に出た話」
今日は「旅に出られない旅人はどうなってしまうのか<その39>」。
とうとう、旅に出ましたという話、先週の土曜日の続きです。
目次
とうとう、旅に出た
とうとう、旅に出た。
2021年3月末のこと。
1年3か月ぶりの旅だ。
旅と言っても、近場のホテルにひとりで1泊だけ。
でもこれが、感動の連続だった。
何もしていない。
ただホテルの部屋でひとりでコーヒーを飲んで、
窓から見えるなんてことのない景色を眺めていただけ。
そうして何時間か過ごした後、
ラウンジで簡単なお酒とおつまみを
アペリティーボがわりにいただいてから、
予約していたホテルのレストランへ向かう。
胸が高鳴る!フレンチ
このホテルには泊まったことがあるが、
このレストランは初めてだ。
数年前に友人とこのホテルに泊まった時には、
別のレストランを利用したのだが、
コロナ対策のため、そのレストランは現在閉まっている。
予約したのはホテルの高層階にある、フレンチのお店だ。
エレベーターであっという間に到着するのだが、
まさに胸が高鳴る!という感じ。
旅に出ないどころか、この1年は外食もほとんどしなかった。
せいぜい3、4回、近所のなじみのお店のみ。
なんて久しぶりだろう、初めてのお店に入るのは。
入り口で名前を告げると、スタッフがにこやかに
「お待ちしておりました」と言ってくれる。
この、初めてのお店なのに
「お待ちしておりました」と接客される、
どこかこそばゆい、気はずかしい感覚も久しぶり。
簡単なコース料理を予約の時点で選んである。
先にグラスワインを注文した後、
女性スタッフが静かにテーブルに近づき、
テーブルから少し離れてから、
マスク越しに比較的大きな声で
コースの説明などをしてくれた。
きっと普段ならもっと客に近づいて小さな声で話すのかな。
これも、コロナ対策の1つなのかな、と思いつつ、
メイン料理、デザートを選択肢の中から選んだ。
窓からはだんだん暗くなる街の景色が見える。
そこに、美しい皿が運ばれてくると、
味わう前から満たされる時間が始まった。
今の私に、ちょうど良い
旅先で味わう食事って、
こんなにも満たされた気持ちになるもんだったかな。
雰囲気も眺めも出てくるお料理も、
最高級ではないし、値段も比較的リーズナブルなものだけど、
なにもかもが今の自分にちょうど良くて、
そのちょうど良さに感動する。
頼んだお料理は、味ももちろんだが、
その量までもが今の私にちょうど良くて、
メインを食べ終わったころには、
窓から見える夜景も、ちょうど良いくらいの光の分量だ。
うれしい提案
後はデザートとコーヒーになったとき、
スタッフから「場所を変えて楽しみませんか」と提案された。
そのレストランにはバースペースがあるのだが、
コロナ対策のため、現在バーの営業はしていないという。
でもバーのカウンター席からは夜景が美しく見えるので、
「デザートとコーヒーはその席でをサーブしましょう」
ということらしい。
レストラン側の何かの都合なのかもしれないが、
ホテル宿泊だから上着も大きなカバンも持たず、
ほぼ手ぶらで入ってきた私のような一人客には
最高の提案だし、なんだかうれしい。
コーヒーってこんなに美味しかったかな。
到着した時、ホテルの部屋でつぶやいたセリフと
同じセリフをまた吐きながら、
「ちょうど良い」夜景を眺める。
(続きはまた来週の土曜日に。)