旅に出られない旅人はどうなってしまうのか<その38>「静かで、五臓六腑にしみわたる旅に出た話」
今日は「旅に出られない旅人はどうなってしまうのか<その38>」。
とうとう、旅に出ましたという話です。
目次
悩んだ末のホテルステイ
まったく旅をしない一年が過ぎた。
旅の予約をしてはキャンセルする。
という、旅行業者にとっては迷惑な行動を
何度か繰り返してきたが、
とうとう私は旅に出た。
2021年3月末のことだ。
旅と言っても、ひとりで近場のホテルに一泊。
仕様や様子を知っているホテルの方がいいかと思って、
数年前に友人と訪れたことがあるホテルにした。
これが、なんとも懐かしくて涙が出そうな旅だった。
まず、ホテルの部屋に入るということ自体が懐かしい。
ホテルの部屋を開けて、ごく普通の、
ホテルにはわりとよくある仕様の、
この光景を見ただけで、
叫び声を上げたくなるほど興奮した。
(普通とは言っても私にとってはいつもよりもちょっとお高めホテルだ。)
落ち着け、私。
落ち着け、私。
今、近場とはいえ、一泊するのはどうだろうとか、
どうせ近場なんだから日帰りでいいのではないかとか、
予約をした後も、直前までぐるぐると思い悩んいたのだが、
ホテルに到着してようやく、「来てよかった」と思えた。
からっからの心に、なみなみと水が注がれるかの如く、
旅に出られないことで不足していた
私の体や心の中のいくつかの成分が
急激に満たされていく感じ。
とりあえず落ち着け、私。
部屋に備え付けのネスプレッソでまずはコーヒー。
コーヒーを飲みながら、窓からの景色を眺める。
特別美しい風景が見えるわけでもない。
(私にとっては結構お気に入りの風景なんだけど。)
この眺め、きっと忘れられないだろうなと思う。
一息つきながら、この貴重な1泊2日をどうするか、
プランを考える。
そうだ、旅ってこんなだったな。
ホテルの中を探索しようか、それとも散歩?
夕食はホテルのレストランを予約してきた。
それまでの時間、どう過ごそう。
どう過ごすかを考える、そんな時間が楽しくて、
なにもせずにずっと考えていたい気すらする。
五臓六腑にしみわたる
旅先で飲むコーヒーって、こんなに旨かったかな。
コーヒーを飲む表現としては間違っていると思うけど、
ひとりだから、部屋の中はとても静かだ。
いったんテレビをつけてみたけど、
静けさを味わいたい気がして、すぐに消した。
日常生活にはない静けさだ。
いつも聞かない音が遠くでしている。
こんなことでも、非日常を感じることができるのか。
まさに旅って、非日常の宝庫だ。
それを求めていたのかもしれないな。
空の色の変化を待って
部屋から空がだんだん暮れていくのを眺めた。
なんて幸せな時間なんだ!
何もかもが五臓六腑にしみわたる。
心の中が常に「ジーン」となっている。
あぁ、来てよかった。
思わず声に出して独り言を言っていた。
旅に出られない旅人の久しぶりの旅は、
心にしみわたる旅だった。
(続きはまた来週の土曜日に。)