≒(ニアリーイコール)を楽しむ言葉の世界<その7>「言葉の面影にニヤニヤする。イタリアの柿の話【後編】」
土曜日は、言葉のお話の続きを書こうと思います。
先週の土曜日の続きです。
前回の記事はこちら
↓
目次
イタリアの「柿」の話、その続き
(何度目かのイタリアのフィレンツェ。もうすぐ到着。2015年夏。)
イタリア語で「柿」を表す言葉は、
「cachi」と表記し、読み方はまさに「カキ」。
そう、イタリアの柿は日本の柿からきている。
(イタリア語では、「chi」を「キ」と読む。「ci」が「チ」になる。)
「カキ」は「カコ」であり「柿」である
イタリア語の「柿」は「cachi」だと書いた。
しかし実は、「cachi」は複数形である。
イタリア語にの名詞には単数形と複数形がある。
かなり例外も多いが、基本的には
男性名詞の場合、単数形の語尾の多くは「o」で終わる。
複数形に変えるには、「o」→「i」にする。
女性名詞の場合、単数形の語尾の多くは「a」で終わる。
複数形に変えるには、「a」→「e」にする。
日本語の「柿」という言葉が、
その音からイタリア語で「cachi」と表すことになった時、
「i」で終わっているこの語句を、
イタリア人は男性名詞の複数形と考えたのだろう。
そのため、「柿」の単数形は「caco」になる。
「caco」が複数形になって「cachi」となる。
確かに、文法的にはそれでつじつまが合っているのだ。
日本人の知らない言葉「カコ」って何……?
というわけで、イタリア語の「柿」は日本語の「柿」から
きているにも関わらず、単数形は「caco」となり、
日本人の知らない言葉となっているのだ。
長い年月をかけて日本語からイタリア語になった「柿」。
「カコ」って何……?
もともとは日本語なのに!という面白さ。
この面白さは、きっと日本語を操る
日本人にしかわからないだろう。
この面白さをイタリア人に伝えたいけど、
それはむずかしいことだ。
「日本でも柿はカキと発音する」と伝えたら
きっと「あらそうなの!」とイタリア人も
びっくりしてくれるとは思うけど、
日本人が感じる奇妙な面白さはきっと伝わらない。
言葉の面影にニヤニヤする理由
そもそもイタリア語には似た言葉がたくさんある。
フランス語がそれにあたる。
それらの言語の間には、共通の意味や音を持った言葉が
たくさん存在し、文法のしくみから言い回しに至るまで
ありとあらゆる部分に共通点があるのが当然のこと。
それは、日本語にはない感覚だ。
遠く離れた国の言葉に共通点を見出した時、
言葉の面影を発見した時、
嬉しくなってニヤニヤするのは、
きっと日本語にとって
それはとても貴重なことだからだと思う。
「cachi」が教えてくれたことは
さて、イタリアの柿の話の続き。
イタリアで売られている柿は、
日本で売られているものと同じ。
でも、一般的な食べ方は少し違う。
(イタリア フィレンツェの中央市場。魅力的な場所。2015年夏。)
イタリアでは、柿はとろとろになるまで熟した状態に
なってから食べるもの。
もはや包丁では切れないくらい柔らかく、
スプーンで果肉をすくっていただく。
まるでマンゴープリンやババロアを食べるような感覚。
甘~い!
柿ってこんなに甘い食べ物だったっけ?!
最初に食べた時にはそんな感想だった。
何を隠そう、私はあまり柿が好きではない。
日本では決して好んで食べないのだ。
でも、イタリアで食べる柿は大好き。
日本語とイタリア語。
同じ音で、現役バリバリの「柿」と「cachi」。
時空を超えて変わらない音と形を守ってきた言葉、
「柿嫌い」を「柿好き」に変えるできごととともに
私の中には記憶されている。
これも言葉の楽しみ?
言葉と言葉をつなぐ「≒」ニアリーイコールの言葉の世界。
同じに見えて、やっぱり同じではなかった。