≒(ニアリーイコール)を楽しむ言葉の世界<その14>「パニーニとパニーノは何が違う?ちゃんと言いたい欲にくじけるイタリア語」
土曜日は、言葉のお話を書いています。
旅中毒にはなかなかつらい「今」です。
目次
大好きだった近所の「パニーニ」
その昔、家から自転車で10分のところに
とてもおしゃれなカフェがオープンした。
その昔とは、20年以上前のこと。
テイクアウトもできたそのカフェには、
「パニーニ」というメニューがある。
ショーケースの中には、何種類かの
「パニーニ」なるものが並んでいた。
なにかどこかで聞いた覚えはあったが、
その当時、「パニーニ」が何ものなのか
私は知らなかった。二十数年前の話である。
「パニーニ」のメニューの説明には、
「イタリア風サンドイッチ」と書いてあった。
ショーケースに並んでいたのは、
ホットドッグのパンが白くなったような見た目。
挟んであるものはさまざまで、
ナス&チーズとか、トマト&チーズとか、
なんとなくイタリアを思わせるような中身。
注文すると、それをホットサンドをつくる要領で
ギューッと押さえつけて圧力で焼いている。
焼目のついた熱々の「パニーニ」なるものは
とてもおいしくて、しばらくその店に通った。
もうその店もいつの間にかなくなってしまったけど、
それが私と「パニーニ」との出会いだった。
もちろん、「パニーニ」が
イタリア語だとは気づいてすらいない。
悩ましい単数形と複数形
「パニーニ」とは、イタリア語の「panini」のこと。
複数形だ。「i」で終わるのは男性名詞の複数形。
単数形だと「panino」ということになる。
今ではイタリア風のサンドイッチのことを、
日本では「パニーニ」と言ってみたり
「パニーノ」と言ってみたり、
混在しているように思う。
「パニーニ、1つください。」という矛盾。
知ってしまった今は、やっぱり気になるものだ。
イタリア語では、1つなら「panino」で
2つ以上なら「panini」ということになる。
単数形や複数形で違いのない日本語を操る
日本人からすると、この変化が悩ましいところ。
どうしても感覚的にとらえられない気がする。
(私だけかもしれないけど。)
「ちゃんと言いたい欲」にくじける?
(2011年冬のフィレンツェ。ドゥオーモの美しくてちょっとこわい感じがよく分かるこの路地。)
イタリアへ行ったとき、
ちゃんと言いたいなといつも思う。
文法のしくみは、ほどほど知っている。
言語には例外が多い。
それが言語のおもしろいところ。
例外を自分のものにするには、
相当な時間がかかりそうだから、
それが言えなくてもそんなに気にならない。
でも、法則に従っている文法に関しては、
「ちゃんと言いたい」欲が大きい。
「panini」と「panino」みたいな単純な文法は特に。
でも、ついついイタリアで、
言い間違えてしまうことがあるのだ。
(2011年冬のフィレンツェ。注文するとき、ついつい焦ってしまう。)
イタリアのバルで、焦って思わず
「Un panini, per favore.」
とか言ってしまった時。
「あ、間違えた……。」と心の中で思う。
気にするほどのことでもないのは分かっている。
意味は通じるし、たいていのイタリア人は
そんなことを訂正してきたりしない。
(2011年冬のフィレンツェ。どこで食べてもパニーノはうまい。)
「ちゃんと言いたい欲」にくじけてしまい、
楽しい気分を失ってしまう、ちょっと苦い瞬間。
イタリアで楽しい時を過ごすために
イタリア語を学んでいるのに、、。
語学学習者なら、この苦い気持ち、
きっとわかってもらえるのではないかと思う。
(私だけかもしれないな……。)
そんな苦い思いでもいいから味わいたい。
あぁ、早くイタリアへ、
まちがいまくってくじけちゃう旅に行きたいなぁ。
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